ただの「問題社員」なら、「ああ、やっぱりな」で済みます。
しかし、可愛がっていた社員・信頼して任せていた社員が不正をしたときは話が別です。
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早く帰してあげた
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大事な取引先を任せた
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プライベートの相談にも乗った
その「情」をかけた分だけ、
「ふざけるなよ」
「あんなに面倒見てやったのに」
「裏切られた」
という怒りが、一気に噴き出します。
このときの憎しみは、「不正の内容そのもの」よりも
「裏切られた」という感情からくることが多いです。

怒りのまま動くと「こちらが悪者」になるリスク
ここでやりがちなのが、
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感情のまま詰める
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その場で辞めさせる
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LINEや電話で人格否定レベルの暴言を吐いてしまう
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社内や取引先に感情的な言い方で吹聴してしまう
という動きです。
気持ちは分かります。
しかし、怒りのまま動くと、立場が逆転することがあります。
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言い方や手続きがまずくて「不当解雇」だと主張される
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名誉毀損だと訴えられるリスクが出る
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内容証明や弁護士名の通知が届き、一気に消耗戦になる
不正をしたのは相手なのに、
「対応が雑だった」せいで、こちらが防戦側に回ることもあります。
「証拠をそろえて徹底的にやる」の正しい方向性
「徹底的にやってやる」という気持ち自体は、
実は悪いことではありません。
問題は、「どの方向に徹底するか」です。
1. まずは感情と事実を分ける
頭に血がのぼっているうちは、
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何円の損害なのか
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いつからいつまで不正があったのか
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一人でやったのか、他に関与者がいるのか
といった「事実」の整理ができません。
一度、紙やメモに
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分かっている事実
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疑っていること
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まだ分からないこと
を書き出し、「気持ち」と「情報」を分離するところから始めます。
2. 社内でできるチェック
たとえばこんな確認です。
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経費精算書・レシートの突合
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売上・入金と実際の入金口座のチェック
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勤怠データと実際の行動のズレ
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社用車・ガソリンカード・交通費の使われ方
ここで大事なのは、「決めつけ」で見るのではなく
「数字・記録」で見ることです。
3. 第三者の目を入れる
身内だけで見ると、どうしても感情が入ります。
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他の幹部・役員
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顧問税理士や社労士
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必要であれば弁護士
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案件によっては探偵・調査会社
第三者を入れることで、
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どこまでが事実として固いのか
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どこから先は調査が必要なのか
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どんな証拠があれば法的な対応が可能か
といったラインが見えてきます。
「証拠をそろえる」とは、
怒りの材料を集めることではなく、
冷静な判断と法的な動きを可能にするデータを集めることです。
徹底的にやる=相手の人生を完全に壊すことではない
「徹底的にやってやる」というと、
相手の人生をズタズタにするイメージになりがちです。
ですが、本来の目的は、
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被害額の把握と、可能な範囲での回収
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再発防止の仕組みづくり
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社内の信頼の立て直し
であって、「復讐」そのものではないはずです。
もちろん、横領や背任のような重い不正であれば、
刑事・民事を含め、厳しい対応が必要なケースもあります。
ただしそこでも、
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証拠がどれだけそろっているか
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どのラインまで責任を問えるのか
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裁判にするのか、示談で終わらせるのか
は、冷静な検討が欠かせません。
「可愛がっていた自分」を否定しない
裏切られると、
「自分の見る目がなかった」
「甘くしなければよかった」
と、過去の自分を全否定したくなります。
でも、そこまで自分を責める必要はありません。
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人を見る目は、経験を積むほど磨かれていく
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裏切られた経験も、採用・教育・管理のルール作りに生かせる
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「可愛がる」こと自体は、会社にとって悪いことではない
今回の出来事は、確かに腹立たしいし、許しがたい。
ただ同時に、
「次に同じことを起こさないための授業料」
にもできます。
まとめ:感情はそのままに、動き方だけはプロフェッショナルに
「可愛がっていた社員に裏切られて、憎さ100倍」
この感情は、抑え込む必要はありません。
腹が立つものは、立ちます。
ただし、動き方だけは感情ではなくロジックで決める。
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感情を整理する
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事実と数字をそろえる
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必要に応じて第三者・専門家を入れる
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徹底的にやる目的を「復讐」ではなく「被害回復と再発防止」に置く
これが、「証拠をそろえて徹底的にやってやる」を
一番現実的で、自分も会社も守る形に変えるやり方です。
怒りをエンジンにしつつ、ハンドルは理性が握る。
経営者にこそ求められる、少し皮肉なバランスかもしれませんね。

