2020年6月1日から施行されたと言われるパワハラ防止法。実はパワハラ防止法と言われる法律は存在しません。

厳密には労働施策総合推進法の改正法が通称「パワハラ防止法」と呼ばれています。

井口博著「パワハラ問題」からパワハラ防止法の内容と、パワハラ防止法の施行によって、パワハラ問題が変化していくのかを考察いたします。

 

 

 

パワハラ防止法とは?

 

「パワハラ問題」ではパワハラ防止法の大きな特徴を5つ上げています。

1・パワハラの定義を定め、事業主に対し、雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けた。

2・事業主に対し労働者がパワハラ相談やパワハラ調査で表現したことなどを理由として解雇などの不利益な取扱いをすることを禁止した。

3・厚労大臣は事業主に対してパワハラの雇用管理上の措置等について報告を求めることができ、必要な時は助言指導勧告ができることとした。

4・厚労大臣は事業主が勧告に従わなかったときは、その旨公表できることとした。

5・厚労大臣に報告をしなかったり、虚偽の報告をした者は20万円以下の過料に処することとした。

ここからわかることは、

パワハラ防止法で処罰されるのは、報告義務を違反した事業主だけで、パワハラ行為そのものを処罰するものではないということです。
4の公表についても、パワハラが行われた企業に対する社会的制裁で、パワハラを行った本人に対しては、罰則がありません。

このため企業側は、会社のイメージを保つために、必然的にパワハラ防止や早期発見に尽力するようになるでしょうが、肝心のパワハラを行う当事者は、相変わらず無自覚にパワハラを行ってしまう場合も出てくる可能性があります。

さらにパワハラだけを取り上げて、他の種類のハラスメントについては言及されていません。

そのパワハラも社員間だけのものに限定しています。。
取引相手とのカスタマーパワハラ、就活の時のパワハラなどは対象外となります。
また、フリーランスなど雇用契約を結んでいる人に対するハラスメントも対象外ですね。

 

セクハラ防止の条例も

 

パワハラ防止法と同時期にセクシャルハラスメントに関しても、男女雇用機会均等法で新しい規定が加わりました。

1・事業主に対し労働者がセクハラ相談やセクハラ調査で証言したことなどを理由として解雇などの不利益な取扱いをすることを禁止した。

2・事業主は他社から他社の労働者に対するセクハラ被害について他者が講じる措置に必要な協力を求められた場合にはこれに応じるように努めなければならない。

1の規定はパワハラ防止法と同じですが、2に関しては、自社の社員が他社の社員にセクハラした時も、会社側は調査に協力する義務が求められており、パワハラよりも一歩前進しているようです。

 

パワハラ防止法で何が変わるのか

 

以上のことを踏まえて、「パワハラ問題」では、3つの変化が起きるとしています。

・会社がパワハラ行為者に厳しく対応するようになる
・パワハラ相談がさらに増える
・パワハラ裁判がさらに増える

多くの会社が既にパワハラ対応体制を強化していますが、これからは対策がもっと強化されることは間違いありません。
パワハラの加害者はさらに厳しく処罰されるようになるでしょう。

今まではハラスメントが起きても言い出しにくい空気がありました。
しかし、法律ができて会社に相談窓口ができることで、間違いなく相談件数が増えていきます。

パワハラ裁判年々増えていますが、それはパワハラ被害者が加害者に対して訴えるものばかりではありません。

会社から懲戒処分を受けたパワハラ加害者が、処分を不服として訴える裁判も増加しています。

法律によって会社側はパワハラ加害者に対して、ますます厳しい処分をせざるを得なくなりました。

これからますます裁判が増えていくでしょう。

 

公務職場でも急増するパワハラ

 

「パワハラ問題」では、さらに公務職場のパワハラが増えていることを言及しています。
アンケートでは、実に78%以上の国家公務員が入省時から、今まで強い不満を感じた上司がいたと答えています。
その不満の理由のトップは上司の態度が高圧的だったということです。
公務職場は同質性が高く、「おかしいことをおかしいと言えない」風通しの悪い組織になりがちで、長いものに巻かれる体質になりやすいと指摘しています。
また公務員の場合、 地位が高くなるにつれてパワハラを受けケースが増えています。

 

まとめ

 

今回は「パワハラ問題」から、パワハラ防止法の内容と、防止法の施行によって
増えていく問題を取り上げました。
これからの会社運営はパワハラの防止が切っても切れないものになりそうです。
雇われる方にとっては年々、風通しが良くなるかもしれません。

しかし、パワハラを気にするあまりに、社員を雇わず、仕事を外部に発注することになると、今度は社員として採用される人が少なくなり、雇用が安定しないという社会問題に発展しそうです。

長い間の習慣を切り替えるのには、まだまだ時間がかかりそうです。