世間にはびこるずる人は、タテマエでは理想を説きながら、本音では人を騙したり、陥れても平然として、あげくの果てに言い逃れて、その上自分の記憶を改ざんして、悪事をしたことすらも覆い隠してしまいます。
加害者側であれば、自分の罪を認めたくなくて、記憶を歪めてしまうのは納得できます。
しかし、被害者側も被害を受けたことを認めないどころか、その記憶すら無くしてしまうことがあります。
たとえば、いじめを解決するための一番の関門は、被害者自体がいじめを認めず、なかったことにすることです。
これは被害を告白したことで、加害者側から報復されることを恐れて認めないという理由もありますが、被害者当人がいじめの事実を記憶から消し去っているからです。
衝撃的な出来事で記憶の一部が消えたり、上書きされたりする設定は、映画やドラマではありがちです。
でも現実にもそんなことがありえるのでしょうか?
ジェニファー・フレイド、パメラ、ビレル著「人はなぜ裏切りに目をつぶるのか」では、裏切りにあっても見て見ぬふりをする被害者のメカニズムが詳細に解説されてします。

 

人はあまりにもつらい裏切りに被害者に合うと自ら記憶が消えてしまう

 

貞淑な妻ジュリーはバーで夫が自分以外の女性とキスしている場面を目撃しました。
それは紛れもない事実でしたが、あまりの衝撃でジュリーの記憶からこの場面は消えてしまいました。その後も夫が浮気していると思われる痕跡や浮気している証拠は次々と見かけるのですがジュリーはなぜかスルー。「夫が浮気なんてするわけがない」という気持ちがうちかち、ジュリーはずっと夫の浮気を知らないことにしてしまいました。しかし、全てのまわりの人はジュリーの夫が頻繁に浮気をしている事実を知っていました。ジュリーの頭の中では数年にわたって、夫の浮気をスルーしていたのです。ジュリーが夫の浮気を認識したのは、夫の事業が破綻して、ジュリーにDVを行うようになってからです。浮気の常習犯でDVの夫から脱出して、自立した今では幸せに暮らしているそうです。

 

自分も守るために記憶を消す

 

第42代大統領ビル・クリントンの妻ヒラリーも夫が長年、他の女性と不適切な関係を結び、しかもその事実を疑いながらも、その事実が認識できなかったと言います。
被害者側が裏切り行為を記憶から決してしまうのは、裏切った当事者と利害関係があるからです。前述のジュリーは当時は夫の収入に頼りきっていました。親から虐待を受けている子供も、親から見放されると生きていく手段がなくなり、虐待を受けたときの記憶が消えてしますケースがあるようです。
その人に裏切られてはもう生きていけないと追い詰められた環境だと、脳が自分を守るために辛い出来事を記憶から消してしまうようです。
会社、学校など自分が所属する大きな組織からの裏切りでも、その心理が働きます。

 

被害者の脳内では何が起こっているのか?

 

では、被害者の記憶の消去や書き換えはどういう理由で起きるのでしょうか。
被害者は解離性障害「解離」を起こします。
ドラマではもう一つの人格が出現する二重人格のような、ちょっと誇張した表現になりがちですが、「解離性同一性障害」と呼ばれています。
しかし、複数の人格が出現するケースはまれで。
実際は
「解離性健忘」が起こり、辛すぎて記憶自体を消してしまうのです。
また失感情言語化症(アレキシサイミア)という性格特性を示すことが多くなります。
アレキシサイミアはストレスが貯まる状況では、反省したり、対処したりできずに、それを避ける行動に走る傾向があります。
その最大の特徴が、自分の感情を言語化することができないということです。
自分の気持ちを言葉に表す行為は、人間が生きる上でとっても大事なことです。
辛い出来事のために、感情を表すスイッチが切れてしまうのでしょう。

 

裏切りに目をつぶるとさらなる被害が拡大

 

裏切りにあった被害者から被害の記憶は消えても、その傷から受けた被害はずっと続きます。
裏切りの被害にあった人は、人と深い関係を築けません。
被害を受けた状況と同じように、閉鎖的な人間関係になりがちです。
そのため被害を受けた人が同じような被害に何度も受けるケースが増えていきます。

 

被害死者の心の回復はあるのか

 

裏切られた人はまず心の傷から、健康を害している場合が多いようです。
睡眠、運動、食事を見直して健康的な生活を送るのが大前提です。
それでも、体調が良くない場合は医療機関で診察してもらいます。
そして、何より、裏切りにあった場合はそれを告白し、同じような被害に遭った人や理解者と共有しあうことが大事です。

著者は「裏切りは人を孤立させることがあるが、裏切りに立ち向かえば人を結びつけることもできる」と語っています。
日本では被害者が孤立しがちです。また孤立している人が被害にあう場合も多いようです。
一人一人が孤立させない環境が理想ですね。