亀山早苗編「人はなぜ不倫をするのか」から昆虫学者・丸山宗俊さんの話から昆虫の世界から見た人間社会の不倫を考察します。

 

たいがいの昆虫の交尾は生涯一度、しかし例外も……

 

昆虫の多様性の秘密は「飛ぶ」ことと「変態する」ことです。
昆虫の99%が飛び、80%以上が完全変態します。
完全変態とは幼虫から成虫の姿がまったく異なる姿になることです。
大部分の昆虫のオスメスは1回限りの交尾で別れて、交尾後のオスが死んでしまうケースが多いようです。
中にはカマキリのように交尾をしている最中や後、場合によっては交尾前にメスに食べられてしまう場合も……
しかし、例外でメスに食べられる前に逃げ出して、まんまと違うメスと交尾できてしまう雄カマキリも……何事にもイレギュラーがあるようです。
それ以前に生涯一度もメスと交尾すらできずに死んでいくオスカマキリも大勢いるはず。昆虫の社会でもモテ格差があるようです。

 

アリは辛いよ。並の人間では務まらないアリは超階級社会

 

人間に近い社会的な集団生活を送るのはアリや蜂です。
アリはある程度の規模に増えると、その中から羽のあるアリが生まれます。
羽のあるメスが飛び立つと他の羽のある別の巣のオスアリと空中で交尾します。
これを「空中結婚」と言うそうです。
見た目も名前も華やかなイメージですが、実際は厳しいようで、オスアリはそこで死亡します。
メスはオスの一生分の精子を貯蔵して女王アリになります。
女王アリはその精子から生涯子供を産み続けます。
女王アリの寿命は長くて10~20年、その間生涯子供を産むことだけに専念します。
生涯、子供を産み続けるなんて……なんて過酷。
女王アリとは名ばかりでこれまた辛い役目ですね。
そして、女王アリが最初に産むのはみんな働きアリたち。こっちは生涯、「女王の世話」「卵と幼虫の世話」「エサ取り」「エサの貯蔵」「他のアリ戦う兵隊アリ」と役割分担があって同じ仕事に専念します。
そして、生涯ただただ種のために働き続けて死んでいきます。
そして、働きアリの全てはみんなメスです。
これもまた過酷です。
女王アリと働きアリのがんばりである程度巣の規模が大きくなってやっと羽アリが誕生して、その中にやっとオスが誕生します。と、言ってもオスも1回の飛行で死んでしまうのだから、アリの世界は人間世界よりはるかに楽しみがないようです。と言ってもアリには感情がなくて、ただただ本能のままに動いているだけです。

 

働きアリも恋はするのか?

 

働きアリも女王アリの子供なので、その巣の中は王国であり、全て血縁関係があります。
働きアリはずっと、家族のために犠牲になって働いて、後から産まれて妹や弟の面倒をみて苦労人のお姉さんのような立場です。
「私だって恋したい!」
って反乱をおかしたくはならないのでしょうか?
丸山さんの話だと、証明はされていないがその可能性はあるそうです。
何らかの都合で産卵できる働きアリがよそから飛んできたオスと交尾して、卵を産み、隙をついて子供を母の産んだ子と紛れ込ませてしまうことがあるようです。

 

アリの世界にも戦争や奴隷制がある

 

アリたちは同じ巣のものとは仲良く暮らしていますが、違う巣穴のものだと排他的らしくて、血で血を洗う戦闘を繰り広げます。
また奴隷制度もあり、サムライアリはクロヤマアリの巣穴に侵入してさなぎを奪い取り、うまれたアリたちを生涯働きアリとしてこきつかいます。
誘拐されたクロヤマアリの方は生まれたときから、サムライアリの巣で暮らしているので、自分の巣だと思い、せっせと働くようです。

 

アリの巣に寄生しておいしいところを奪う輩も……

 

アリの巣はしっかりした社会ができあがっており、住みやすくエサも豊富です。
となるとそれを狙って「好蟻性昆虫」と呼ばれるアリの巣のおいしいところを昆虫たちが近づいてきます。
アリは他の種のアリには排他的ですが、意外と他の昆虫に対しては無頓着のようです。
体長が3~5ミリの小さなアリヅカコウロギがアリの巣のエサを横取りします。
アリスアブの幼虫はアリの巣と一体化して、全く気がつかれないままアリの幼虫やサナギを食べてしまいます。
ゴマシジミという蝶の幼虫はアリの好む科学物質を出してアリをおびき寄せます。そして自分の妹だと勘違いした働きアリに巣まで運ばれてたどり着くと蟻の幼虫を食べてしまいます。蟻の巣が機能的で立派に造られているため他の昆虫にも狙われやすいのでしょう。
まじめに働いている人からだまし取ったり、盗んだりする犯罪者たちと通じるものがあります。

 

不倫は本能の発露

 

丸山さんはこう言います。「昆虫のような原始的な生物をずっと研究していると昆虫の世界の方が生きやすく、実は人間の方が生物という形からはずれているのかもしれない」
本能以外の常識や社会通念が大きくなりすぎている。
軽々しく肯定するわけではないが、人間はあくまでも狭い価値観の範囲で生きていることを自覚した方がいい。少なくともそうすれば最近のように赤の他人が不倫で大々的に責め立てることもなくなるだろうと語っています。
不倫、浮気サレた方はたまったもんじゃありませんが、昆虫の視点から見れば人間の悩みは全てたいしたものではないのかもしれません。